「マダニが媒介する病気」と聞いても、室内で猫を飼っている方には、少し遠い話に思えるかもしれません。ところが近年、SFTS(重症熱性血小板減少症候群)は、猫や犬でも人でも報告が増えています。猫が発症すると命にかかわることが多く、看病する飼い主や獣医療従事者に感染した例も報告されています。
この記事では、SFTSとはどんな病気か、国内の状況、猫のダニ対策、人への感染を防ぐための接し方を整理します。過度に怖がる必要はありませんが、正しい知識を持っておくことが、猫と家族を守る第一歩になります。
SFTSとはどんな病気?
SFTSは、SFTSウイルスによる感染症です。2011年に中国の研究者らが報告した比較的新しい病気で、日本では2013年に、海外への渡航歴がない人の感染が初めて確認されました。
主な感染経路は、ウイルスを持つマダニに刺されることです。マダニは、家の中ではなく、山林や草むら、藪、河川敷などに生息しています。日本国内では、フタトゲチマダニなどが関わると考えられています。
人が感染すると、6日から14日ほどの潜伏期間を経て、発熱、倦怠感、頭痛、食欲低下、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛などの症状が出ます。血液検査では、白血球や血小板の減少がみられます。重症化すると、ショックや意識障害、多臓器の障害を起こすことがあります。国内での致命率は約27%と報告されています。
治療は長く対症療法に限られていましたが、2024年6月24日に、抗ウイルス薬のファビピラビルにSFTSへの適応が追加承認されました。ただし、SFTSが軽くすむ病気になったわけではありません。早い段階で医療機関を受診することが大切です。
国内の発生状況|西日本だけの病気ではなくなった
JIHSが公表している資料によると、2026年7月31日現在、感染症発生動向調査に届け出られたSFTSの症例は累計1,368例です。年間の届出は、発病年別に次のとおりです。
- – 2023年:134例
- – 2024年:121例
- – 2025年:192例
- – 2026年:115例(7月31日までの届出)
2025年は、これまでの年で最も多い数になりました。届出時の年齢の中央値は75歳で、高齢の方の症例が目立ちます。
かつては、主に西日本の病気とされてきました。実際、届出数が多いのは宮崎県、広島県、長崎県、高知県、山口県などです。しかし、2025年7月には神奈川県で、初めて関東地方を推定感染地域とする報告がありました。8月には、北海道と茨城県でも患者が報告されています。JIHSは、全国的に感染リスクがあると考えられるとしています。
なお、一般の生活での感染リスクは低く、マダニの活動が活発になる春から秋の野外活動では中程度、という評価です。必要以上に不安になる必要はありませんが、地域を問わず、備えは必要です。
猫のSFTSが注目される理由
猫がSFTSにかかると、ヒトよりも症状が重くなりやすいとされています。JIHSの資料によると、2024年の1年間に、SFTSと診断された猫は194頭、犬は12頭でした(SFTS診断ネットワークの調査)。動物のSFTSは法令上の届出義務がないため、実際の数はこれより多い可能性があります。
猫では、発熱、元気消失、食欲低下、白血球や血小板の減少、黄疸、嘔吐などの症状が報告されています。致死率は約60%(62.5%とする報告)と高く、犬についても、自治体の資料では25〜40%程度とする報告があります。
発生時期にも特徴があります。人の症例は5月から10月に多いのに対し、猫では3月から5月に多く、冬にも発生しています。人より早い時期に増える傾向があるため、春先から気をつけておく必要があります。

猫から人にうつることはある?
主な感染経路はマダニですが、SFTSを発症した猫や犬に咬まれたり、体液や血液に直接触れたりして、人が感染した例も報告されています。
JIHSの資料には、猫に咬まれて感染した例や、病気の犬から飼い主に感染した例が挙げられています。動物の診療やケアで感染したと推定される獣医療従事者の症例は、2026年7月末時点で12例届け出られていて、2025年には死亡例もありました。
また、2024年3月には、国内で初めて、人から人への感染が報告されました。重症患者の体液などに直接触れた医療従事者の感染です。
ここで大切なのは、「元気な猫と暮らすこと自体が危険」ではない、という点です。リスクが高まるのは、次のような場合です。
- – マダニに刺された、または刺された可能性のある猫が体調を崩したとき
- – 具合の悪い猫を、素手で世話したり、咬まれたりしたとき
正しい対策をとれば、猫と暮らすことは今までどおり続けられます。
飼い猫のマダニ対策
猫は室内飼いを基本にする
猫を屋外に出さないことは、SFTSだけでなく、他の感染症や交通事故、迷子などの危険を減らす意味でも有効です。自治体も、猫の屋内飼養を勧めています。外に出る機会がある猫は、マダニに接する機会が増えます。
動物病院でダニ駆除薬を相談する
猫用のマダニ駆除薬(内服・外用)を定期的に使うことは、マダニの付着を減らす有効な方法とされています。ただし、次の点に注意してください。
- – 薬は、必ず獣医師に相談して、猫の体重や年齢、健康状態に合ったものを選びます。
- – 犬用の製品には、猫に使えない成分を含むものがあります。犬用を猫に使うのは避けてください。
- – 「駆除薬を使っているから、絶対に安心」というわけではありません。ほかの対策も併用してください。
外に出る猫は、帰宅後に体をチェックする
やむを得ず外に出る場合や、庭やベランダに出る猫は、帰宅後に体を確認します。特に、耳の周り、首、脇、内股、顔などです。マダニが付いていても、小さくて気づきにくいことがあります。
吸血中のマダニは、無理に取らない
マダニは、皮膚に口を深く刺して、数日から10日以上吸血することがあります。無理に引き抜くと、口器の一部が皮膚に残ったり、体液が逆流して病原体が体内に入りやすくなったりするおそれがあります。動物病院で処置してもらってください。
人がマダニに刺されないための対策
マダニ対策は、人にとっても大切です。JIHSは、次の方法を挙げています。
- – 草むらや藪に入るときは、長袖・長ズボンを着る
- – 袖や裾は、手袋・靴下・長靴などに入れて、肌を露出しない
- – サンダルは避け、足を完全に覆う靴を履く
- – マダニを見つけやすい、明るい色の服を選ぶ
- -「マダニの忌避」の表示がある、ディートまたはイカリジンを含む忌避剤を、用法・用量を守って使う
- – 屋外活動後は入浴し、首・耳・脇の下・足の付け根・手首・膝の裏などを確認する
ペットの散歩をする方は、犬だけでなく自分の服や靴も確認しましょう。
猫の具合が悪いときの接し方
マダニに刺された可能性のある猫が、次のような様子を見せたら、早めに動物病院に相談してください。
- – 元気がない、ぐったりしている
- – 食欲がない
- – 熱がある(39度以上が目安)
- – 嘔吐や下痢がある
- – 目や口の粘膜が黄色っぽい
受診の際は、マスクと手袋を使い、咬まれたり体液に触れたりしないように気をつけます。事前に電話で「マダニに刺された可能性がある」「SFTSが心配」と伝えておくと、病院側も準備ができて安心です。
また、日常のふれあい方も見直してみましょう。
- – 口移しでえさを与えない
- – 同じ布団で寝るなど、過剰な接触を避ける
- – 猫に触れた後は、手を洗う
- – 体液や血液が付いたときは、すぐに石けんと流水で洗う
地域猫の世話をしている方へ
野良猫や地域猫の世話をしている方は、屋外でマダニに接する機会があり、猫の体調悪化にも直面しやすい立場にあります。
- – 世話をするときは、長袖・長ズボンなどの服装を心がける
- – 弱っている猫を保護するときは、素手で触らず、手袋を使う
- – 猫が咬んだり引っかいたりしたときは、傷口を洗って、様子を見る
- – 保護した猫が体調を崩したら、早めに獣医師に相談する
人が体調を崩したときの受診の目安
マダニに刺された後、または感染が疑われる動物に接した後は、数週間ほど体調の変化に注意してください。発熱、倦怠感、頭痛、吐き気、下痢などがあれば、すぐに医療機関を受診し、次の点を伝えましょう。
- – マダニに刺された、または刺された可能性がある
- – 具合の悪いペットの世話をした、咬まれた、体液に触れた
これらを伝えることで、医師の判断がスムーズになります。
よくある質問
Q. 完全室内飼いの猫でも、SFTSにかかりますか?
マダニは、人の衣服や靴、ほかの動物に付いて家に入ってくることがあります。室内飼いの猫のリスクは低いと考えられますが、ゼロではありません。外から帰ったら、服や靴、持ち物にマダニが付いていないか確認しましょう。
Q. SFTSの猫に触ったら、必ず感染しますか?
必ず感染するわけではありません。感染が報告されているのは、咬まれた場合や、体液・血液に直接触れた場合などです。正しく対処すれば、リスクを下げられます。
Q. 猫用のSFTSワクチンはありますか?
私が確認できた公的資料では、猫に使えるワクチンについての記載は見当たりませんでした。予防の中心は、マダニ対策です。最新の情報は、かかりつけの獣医師に確認してください。
まとめ
SFTSは、もはや西日本だけの病気ではありません。人でも猫でも報告が増えているため、地域を問わず、備えが必要です。
大切なポイントは次のとおりです。
- – 猫は室内飼いを基本にし、獣医師と相談してマダニ駆除薬を使う
- – 外に出る機会があれば、帰宅後に体をチェックする
- – 人も、草むらや藪では肌の露出を減らし、忌避剤を活用する
- – 具合の悪い猫には、素手で触らず、早めに獣医師へ相談する
- – 人に症状が出たら、マダニやペットとの接触を医師に伝える
不安になりすぎる必要はありません。基本的な対策を習慣にして、猫との毎日を大切にしてください。
参考
- 国立健康危機管理研究機構(JIHS)「国内外における重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の発生状況について」(2025年9月18日改訂)
https://id-info.jihs.go.jp/risk-assessment/severe-fever-with-thrombocytopenia-syndrome/20240801/index.html - 国立健康危機管理研究機構「感染症発生動向調査で届出られたSFTS症例の概要(2026年7月31日現在)」
https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idss/target-diseases/sfts/201303-202501/20260731_SFTS.pdf - 厚生労働省「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き 2025年版」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001598839.pdf - 厚生労働省 事務連絡(令和7年8月7日)SFTS患者の国内での発生状況について
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001534945.pdf - 神奈川県「ペットの重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について」
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/e8z/sfts.html - 群馬県「ペットの重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に注意しましょう!」
https://www.pref.gunma.jp/page/717276.html - 相模原市「ペットの重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について」
https://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/kosodate/kenko/1026628/pet/1035354.html
※本記事は、2026年9月24日時点で確認できる公表資料に基づく一般的な情報提供です。診断や治療の代わりにはなりません。ペットの体調不良は獣医師に、ご自身の体調不良は医療機関にご相談ください。

